間一髪の相続放棄

ご逝去された方に借金等の債務がある場合、相続放棄をしないと、相続人が債務を引き継ぐことになってしまいます。
相続放棄は、相続開始を知った時から3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述する必要がありますが、これを過ぎた場合は、申述をしても却下されることとなります。
ある日、熟慮期間の経過によって相続放棄の申述を却下されてしまったというご相談を受けました。相続する負債額は2000万円。悪夢のようなお話で、相談者は憔悴しきっていらっしゃいました。なぜそのようなことになったのかをお伺いしたところ、ご相談者様と被相続人は遠い親戚で、長年全く交流もなく、被相続人がご逝去されてから約4年後に債権者がご相談者様を訪問し、初めて被相続人の死亡の事実と債務の存在を知ったのだそうです。ですがこの時、ご相談者様は債権額を聞くこともなく、大丈夫だろうと考えのんきに構えていたそうです。その後、更に8ヶ月後、再度債権者の訪問を受け、「お宅に請求することになりますよ」と告げられ、慌てて相続放棄の申述をしたという流れでした。 しかし、家庭裁判所では一度目の訪問の時期に相続開始を知ったと認定されたため、そこから3ヶ月が経過しているという理由で、相続放棄の申述は却下となってしまいました。
ご相談を伺った第一印象は「債権者の罠にかかってしまったお気の毒なケース」というものでした。 というのも、法律に詳しい債権者が、わざと軽い調子で相続開始の事実を知らせ、熟慮期間を徒過させた可能性が高いと思ったのです。 しかし、さらに詳しく内容を伺うと、一度目の訪問時には、債権者から「親戚に手続が済んでいない人がいる」と聞いていたとのことで、ここが引っかかりました。3ヶ月の熟慮期間のスタート時点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」であり、通常は被相続人の死亡を知った時ですが、例外的に、先順位の相続人が相続放棄等によって相続人でなくなることにより初めて相続人となる立場の方の場合、死亡の事実だけではなく、その相続放棄等の事実についても知った時が「自己のために相続の開始があったことを知った時」となり、その時から初めて熟慮期間がスタートするのです。債権者の「親戚に手続が済んでいない人がいる」という言葉は、先順位相続人の相続放棄が未了であったことを指しているのかもしれず、その場合は債権者は親切にも前もって相続放棄の必要性を案内をするためご相談者様を訪問した可能性もありました。
そこで、私は直ぐに受任し即時抗告の申立と共に、家庭裁判所の事件記録を確認しました。すると、思った通り、家庭裁判所が「自己のために相続の開始があったことを知った時」と認定した一度目の訪問の時点では、先順位の相続人の一人の相続放棄が済んでいなかったことが判明しました。 また、幸いにして、債権者も当方の主張に添うお話をしてくださり、本人が聞いた話についての裏付けもとることができました。 こうして、本人が相続開始を知った時期は二度目の訪問の時であったと立証でき、高等裁判所の決定で却下決定が破棄され、無事、相続放棄は受理されました。
もしこの事件で、本人が泣き寝入りをしてしまったり、弁護士を探しているうちに即時抗告申立期間(14日間)を徒過してしまっていたらと思うと、ぞっとします。 また、債権者が誠実な方でなければ、立証ができず、判断を覆すのは難しかったかもしれません。
いろいろな意味で間一髪だったと感じる事件であり、記憶に残っています。

弁護士法人中部法律事務所  弁護士 佐藤

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