以前からお話しているとおり、民法が改正される話が進んでいます。 民法改正について、1つ1つテーマを取り上げ、順番に、丁寧に分かりやすく解説していく予定です。
今回のテーマは、「債務不履行の解除①」です。
債務不履行の解除では、従来の考え方を否定する根本的な改正がされますので、まずは、その根本的な改正について、説明・解説していきます。
債務不履行の解除とは
債務不履行の解除とは、債務者が債務を果たさない(債務不履行)場合に、債権者に生じる契約の解除権、または、債権者が契約を解除することをいいます。
現行では債務不履行の損害賠償請求と同様の要件
前回コラム:民法(債務不履行の損害賠償請求)が改正されます!で、
①債務不履行には、一般的には履行不能、履行遅滞、不完全履行の3パターンがあると考えられていること
②損害賠償請求の要件として、現行民法では、履行不能以外の場合に、債務者の帰責事由が必要であるか規定がないこと
③民法改正により、債務不履行の損害賠償請求に債務者の帰責事由が必要であると明文化されること
は、説明・解説したとおりです。
債務不履行の解除も、現行民法には、②と同じ問題がありました。
債務不履行の解除に関する現行民法の規定を見てみましょう。
◆現行民法541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
◆現行民法543条
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
履行不能では、債務者の帰責事由が必要ですが、履行遅滞や不完全履行では帰責事由を必要とする規定がありません。
債務不履行の損害賠償請求では、条文の規定はないけれども、判例・実務上、履行遅滞や不完全履行でも帰責事由が必要であるとされてきました。
債務不履行の解除も、同じ債務不履行の問題であるとして、損害賠償請求と同じように、履行遅滞や不完全履行でも帰責事由が必要であると考えられてきました。
ですから、債務不履行の解除も同様に民法の改正が行われると、、、そう説明したいところですが、損害賠償請求とは対照的な改正がなされることになりました。
債務不履行解除の改正:債務者の帰責事由は不要
結論からお話しすると、債務不履行の解除は、債務不履行の損害賠償請求とは別の枠組みであると考え方を改め、その要件として、債務者の帰責事由は不要とされました。
債務不履行の損害賠償請求は、債務不履行によって生じた損害を、債権者と債務者のいずれに負担させるべきかという問題です。
債務者にミス、過失、故意など帰責事由があれば、債務者が損害を負担すべきであり、債務者の帰責事由が損害賠償請求の要件となるのも当然といえます。
これに対し、債務不履行があった場合に契約の解除を認める目的は、債権者を契約による拘束から解放し、原状を回復することにあります。
同じ債務不履行が前提となるにしても、債務不履行解除は、債務不履行解除の目的に沿って、要件を考えてよいはずです。
そこで、債務不履行の解除では、改正案は、従来の規定と通説の考え方を否定して、解除の要件として「債務者の責めに帰すべき事由」は不要であるという新しい立場を採用しました(現行民法543条の削除)。
債務不履行解除の改正の影響
以上のように、債務不履行の解除の要件として、債務者の帰責事由が不要であるという重要な変更は、少なからぬ影響を与えるといえます。
具体的には、これまでの裁判では、債権者が債務不履行により契約を解除したことを主張した場合、債務者の抗弁(反論)として、債務者には帰責事由がなかったという抗弁(反論)がありました。
けれど、民法改正により、債務者の帰責事由は解除の要件ではありませんから、このように反論しても意味がない、失当ということになります。
以上、今回は債務不履行解除に関する民法改正の説明をお送りしました。
次回、弁護士コラムもご期待下さい。
(文責:弁護士 若井)
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